幻の名機「HP Dragonfly Pro (白)」実機レビュー:中古購入の「罠」とハードウェアの「癖」を徹底検証

Chromebook

はじめに:なぜ今、2023年の「幻のモデル」を追うのか

「幻」の背景

このモデルは、2023年1月のCESで発表され、同年の春(3月)に華々しくデビューした。しかし、翌2024年の夏にひっそりと公式ラインナップから姿を消した。販売期間はわずか1年半ほどしかなく、しかも最後の数カ月間は在庫切れ状態が続いており、実質1年ちょっとで市場から消えた、まさに『幻』と呼ぶにふさわしい短命な名機だった。

「3台所有」の実機

写真にもある通り、現在3台(白1台、黒2台)を所有している。黒1台はメインで使う実機に何かあったときに、中を開けて修復が必要な場合に備えて事前に内部構造を把握する用途になっている。購入は全てebayで行った。毎日監視してやっと見つけてポチったというわけだ。なので全てUSキーボードである。分解用の黒はその中でも比較的状態の悪いものであり、バッテリーがへたってきている等がある。

購入動機:ASUS CX54ではなく、なぜDragonfly Proだったのか

さて、そうまでしてこの機種が欲しかった理由は、Chromebookでは珍しい「圧倒的なスペック」と「洗練されたデザイン」にある。

ハイスペックChromebookというジャンル自体、選択肢がかなり限られているのが現状だ。しかし私は、Linuxアプリをガンガン動かして開発もやりたいし、GoogleのOSに統合されていくAI機能もフルに体感していきたい。そうなると、どうしても妥協のないハイスペック機が必要になってくる。

また、私のデスク環境も理由の一つだ。普段、32インチの4Kモニターを2枚(120Hz駆動と60Hz駆動)使用しているのだが、Chromebookからこのデュアル4K環境へ安定して出力できることも必須条件だった。これだけの描画負荷に耐えうる帯域とパワーを持つ機種となると、Thunderbolt 4 / USB4を搭載したハイエンド機しか選択肢に残らない。

さらに驚くべきは、このHP Dragonfly ProがそのThunderbolt 4ポートを『4つ』も搭載している点だ。左右に2つずつ、計4ポート全てがThunderbolt 4という構成は、ChromebookはおろかWindows機を含めても極めて稀であり、この『変態的』とも言える充実したI/Oポートも購入の大きな決め手となった。

実は、同じくハイスペック機であるASUS ExpertBook CX54も所有している。CX54のアンチグレア画面と解像度は非常に素晴らしいと思う。しかし正直に言うと、デザインが「無骨」過ぎて、あまり好みではなかった。

一方で、このHP Dragonfly Proはデザインが非常に良い。 初めてこの機体を手にしたとき、瞬間的に「かつてのM2 MacBook Pro 13インチを手にしたときと同じ感覚」になったのを覚えている。

ASUS ExpertBook CX54  こちらもデザインは無骨であるが優れたディスプレイとアンチグレアのサラサラしたタッチ対応画面で触りやすく、文字は非常に鮮明である。スピーカーはharman/kardon。
こちらがHP Dragonfly Proである。スピーカーはBang & Olufsenで両サイドにスピーカーグリルがあり上向きについている。音質は非常に良く、最大音量も相当大きい。画面輝度は最大1200nits。デザインも優れておりカフェで広げても大丈夫。背面にはWindowsでありがちな目立つ排気口はない。Dell XPS(現Dell Premium)も背面に目立つ排気口はなく洗練されたデザインだがそれに似ている。ゴム足もバータイプである。
RGBカラーに点灯時のキーボード。壁紙に合わせる設定では、壁紙の色系統に合わせたバックライトに自動で切り替わる。

キャプションでも触れたが、壁紙と連動するRGBバックライトや、B&Oの文字が筐体サイドに印字されたスピーカーなど、細部の作り込みが素晴らしい。「ただ性能が良い」だけでなく、持っているだけで嬉しくなるような、そんな美しさがこの機種にはある。

音質検証:M1 MacBook Airとの比較

まず、HP Dragonfly Proのスピーカーは聴けば即「良い音」だと分かる。だが、これはどのくらい良いのだろうか? 以前所有していたMacBook Pro(新筐体)の記憶と比較しても匹敵するレベルだと感じたが、今回はあえて参照機としてM1 MacBook Airを用意した。

なぜProではなくM1 Airなのか? 理由は、Proとはまず価格帯が違う。対してM1 Airは、本機と同じ$999(米国発売時)からスタートした、まさに同格のライバル機だ。さらにM1 Airはキーボード左右にスピーカーグリル(穴)があるからだ。構造的にDragonfly Proと近く、比較対象として最適だと判断した。

純粋な「音質」と「音量」

まず、純粋なオーディオ性能の比較だ。 結論から言うと、音の厚み、広がり、そして最大音量において、HP Dragonfly ProがM1 MacBook Airを上回っていると感じた。

さすがはB&Oチューニングのクアッドスピーカーだ。M1 Airもこのクラスでは名機と言われるが、聴き比べるとM1 Airの方が少し音が「籠もって」聞こえるほど、Dragonfly Proはクリアでパワーがある。 13インチのダブルスピーカー(Mac)とクアッドスピーカー(HP)では不公平かもしれないが、Macは総じてレベルが高いので、比較相手として不足はないだろう。

筐体の「剛性」と「振動」

しかし、その「パワー」には代償があった。全く同じ音量というわけではないが、聴き比べると、Dragonfly Proはパームレストやキーボード面が指に伝わるほど大きく振動するのだ。

対してM1 MacBook Airは、アルミユニボディの剛性が高いためか、音量を上げても筐体はほとんど振動しない。意識すれば微かに揺れているのが分かる程度だ。 自分としては、ここまで筐体が振動するPCを手にしたのは初めてで、他のWindows機でも体験したことはなかった。

正直、手にして最初の1〜2分は「これはキツイな(不快だな)」と思った。しかし不思議なもので、今では全く気にならなくなった。「慣れれば大丈夫」、これが正直な感想だ。

「ヒンジ」付近から微妙な音?

ただ、今でも気になることが1点ある。それは低い男性の声などを音量「普通以上」で流したときに、ヒンジ付近から「キシキシ」と聞こえるノイズだ。

これはおそらく本体側(ヒンジ機構やその周辺のパーツ)が、スピーカーの強力な低音振動を受け止めきれずに「ビビリ音」を上げている音だ。 音質そのものは素晴らしいだけに、この「建付け」の甘さ(あるいは経年による緩み?)は惜しいポイントだ。

結論:優等生のMac、暴れ馬のHP

結論として、「完成度と安定感」ならMacBook Air「多少荒削りでも、迫力あるサウンドを楽しみたい」ならDragonfly Proという結果になった。 この振動も、小さなボディから規格外の重低音をひねり出している「エンジンの鼓動」だと思えば、ガジェット好きとしては愛着が湧いてくるポイントかもしれない。

中古購入の最大の「罠」:4ポート中1ポートが死んでいた

4ポートついているといっても全て同時に使用するタイミングというのはなかなかない。そのためしばらく気づかなかったが、ある時、外部モニター2つ、外部スピーカー1つ、さらに外付けSSDを接続しようとしたことがある。

ところが、左手前のポートに挿しても認識しない。「ん?」と思い、別ポートに接続すると普通に認識した。「まさか」と思った。

そこで充電ケーブルを接続してみると、なんと普通に充電が開始されたのだ。 「充電はできる。しかしデータ転送はできない。」 これがこの不具合の厄介なところだ。

中古PCを買うときは「全ポートでのデータ転送」が大丈夫か、必ず出品者に確認すべきだった。出品者も確認してないかもしれないが、確認したとすれば充電ケーブルだけ挿して充電されることからOKと判断してしまったのかもしれない。充電だけでなくしっかりデータ転送も大丈夫か確認すべきだということだ。今回は4ポートある機種だからまだ助かったが、もしポートが少ない機種なら致命的だった。

【チラ見せ】分解モデルから見る内部構造の注意点

全ての箇所ではないが内部構造は黒モデルで確認済みだ。

背面を開けていくつかのネジを外した状態。
ヒートシンク、ファン付きの蓋を外すと、CPU、マザーボードが見える。
外したカバーの裏側。熱伝導シート、サーマルペースト、サーマルパテが見える。(熱伝導シートは少し斜めになっているので手作業でつけているのだろう。)

サーマルペーストだけでなくサーマルパテ、熱伝導シートが使用されている。開けた場合にはサーマルペーストとサーマルパテは塗り直した方が安全と思う。

しかし、ここで一つ「希望の光」が見えた。

2枚目の写真をよく見てほしい。不具合のあったThunderbolt 4ポート(右側)が、メインのマザーボード直付けではなく、フレキシブルケーブルで接続された独立した「サブ基板」になっているのが分かるだろうか。

これは不幸中の幸いかもしれない。もしマザーボード直付けなら修理は絶望的だが、この構造なら、黒デバイス(部品取り機)からこの「サブ基板」だけを移植すれば修理可能かもしれない。(※詳細は将来の別記事で!)

まとめ:手のかかる子ほど可愛い、最高の「Lab」機

ポートの不具合やスピーカーによる筐体の振動といったことは確かにあった。しかし、それを補って余りあるほど、この機種には価値がある。

所有欲を満たす洗練されたデザイン、MacBookに引けを取らないスピーカー品質、そして4Kモニター2枚を余裕で駆動するパワーと驚異の拡張性。繰り返すが、これほどのスペックを持つ機種はChromebookとして唯一無二であり、非常に貴重なのだ。

まさに、日常使用とLab機として快適に使用できる機体であり、これ以上の素材はないだろう。

次回予告:同一機種なのに移行失敗? 120GB超のLinux復元、「容量」の非情な壁

さて、この白いDragonfly Proは、すでに私のメイン開発機として稼働している。 次回は、この白モデルで構築した120GB超の巨大なLinux環境を、バックアップのために予備の黒モデル(全く同じDragonfly Pro)に復元しようとして、エラーで失敗した記録をお届けする。

同じ機種、同じストレージ容量。ChromeOS標準のバックアップ機能(.zst圧縮)を使ったはずが、なぜか復元できない「同じ256GBモデルなら入るはず」という私の目論見は甘かった。

ChromeOSが突きつけたのは、「SSD容量不足」というあまりに単純で、しかし回避不能な現実だった。 次回は、この失敗の記録と、「現実的な妥協点」に至るまでの、試行錯誤の顛末をお届けする。

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